義兄との続編
忠文さんと初めてキスをしてから二ヶ月が経った。
おはようも行ってらっしゃいもおやすみも、キスだけは数え切れないくらいした。
だけどそれ以上の事はしてくれない。
僕に性的な魅力がないんだろうか……。
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「はあ……」
「日向くん、絶対に何か悩み事あるでしょ」
大学の空きコマの時だった。
いつものように仲のいい女の子たちとお昼を食べてる時に言われた。
「え、なんで?」
「ため息、上の空他にもいろいろ!」
「これは恋だな?」
「!?」
図星で固まってしまったところを見咎められてしまった。
後はもう白状するしかなく、相手が男性である事は伏せて話した。
「なるほど……年上で経済力ある大人な人と、二ヶ月経っても何もなしか……」
「二ヶ月でまだは普通じゃない?」
「えーでもあたしはエッチはすぐするー合わなかったら最悪だもん。自分から誘わないの?」
「ちょっと、自分からは恥ずかしくて……」
「もーっ!乙女かっ!かわいいかっ!」
二人がかりで両サイドからもみくちゃにされる。
周りの目があれなのでやんわり落ち着いてもらった。
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初めて友だちに自分の恋の話をできて少しスッキリした。
今までは誰にも言えなくて、自分の中でモヤモヤしてるだけだったから。
それにいいアドバイスも貰う事ができた。
実践してみようと思う案も聞けた。
今はリビングで忠文さんの帰りを待っている。
この後のことを考えるとどうしても胸が高まってしまう。
ガチャりと鍵を開ける音が玄関から聞こえて、立ち上がる。
玄関まで行って忠文さんを出迎えた。
「お帰りなさい!」
「ただいま」
柔らかく微笑む隆文さんから優しいキスが降ってくる。
毎日のことなのにぽやーっとしてしまう。その間に忠文さんは靴を履き替えてリビングまで行ってしまった。
「おっ今日はハンバーグか。日向のハンバーグ大好きだから嬉しいよ」
「……」
お風呂にするご飯にするそれとも僕?作戦はタイミングの喪失により頓挫。
「どうした?」
「な、なんでもないです……」
つ、次こそは……。
ご飯を食べ終わって、洗い物と皿拭きを二人で分担してる時だった。
「今日ちょっと仕事持って帰ってきちゃったから、日向先にお風呂入っちゃて」
「えっわかりました……お仕事頑張ってくださいね」
忠文さんにまた心配そうな反応をさせてしまった……。
お風呂上がりに誘惑作戦も想定ルートから外れたため頓挫。
その……するのなら二人ともお風呂に入った後の方がいいかなって思って、自分が後から入って、こう、薄着で過ごして誘惑って思ったんだけど……。
仕事のお供にノンカフェインのコーヒーを淹れてから、僕はお風呂に入った。
とっておきの日に使おうと思っていた友達からの誕生日プレゼントのボディスクラブをおろして、身体も……隅々まで洗った。
お風呂上がりには旅行のお土産でもらったパックをしながら髪の毛を乾かした。
お風呂上がりは想定していた薄着とかではなく、普段通りの忠文さんにプレゼントでもらったシェラートペケのパジャマを着た。
「忠文さん、お風呂お先でした」
灯りのついたリビングを覗き込むと、彼はノートパソコンと分厚い資料を広げていた。
「まだちょっとかかりそうだから、待たないで寝ててね」
ブルーライトカットのメガネをとって目頭をもむ忠文さんがすごく疲れて見えて、後ろに行き肩を揉む。
「無理しないでくださいね」
「ありがとう日向、気持ちよかったよ。明日一限からだろ?早く寝ろよ?」
肩を揉む僕の手に、ポンポンと忠文さんの手が重ねられる。
「……はい、おやすみなさい」
再びメガネをかけて仕事モードに入った忠文さんに、邪魔はできないと思いおやすみなさいと声をかけた。
身をかがめて目を閉じると、キスをくれた。
……今日は、いや、今日も無理かもしれない。
自分の部屋の扉を閉めてその場に座り込んだ。
キッカケを自分から作ろうとしても、いつも失敗してしまう。
忠文さんは大人で、リードがうまくて、忠文さんが望んでいないことは僕が望んでもかなわない。
「はぁ……」
忠文さんが望んでいないんだと思考が至ってしまい、悲しくなってしまう。
最初に忠文さんがくれた熱い目は、見間違いか何かだったんだ。あれは浅ましい僕の妄想か何かだったんだ。
それもそうだ。だって僕らは気持ちの上では恋人同士でも、はたから見たら義理の兄弟。忠文さんは姉の旦那さんなんだ。
それなのに浮かれて肉体的な繋がりを求めるなんて、とてもおぞましい事だったんだ。
そこまで考えて、なんだかもやもやしていたものが吹っ切れた感じがした。
僕が隆文さんが好きで、彼も気持ちを返してくれる。好きな人に好いてもらえて、これ以上に幸せな事なんてない。
僕は僕にできる事を忠文さんにする。それでいいじゃないか。
セックスがなくたって、気持ちが繋がってる。
「そうじゃないか」
愛情表現は何もセックスだけじゃない。朝も夜もしてくれるキスも、僕がするって言っても手伝ってくれる家の事も、全部忠文さんがくれる愛情なんだ。
肉欲だけが愛じゃない。……そりゃあキスされるたびにエプロンの下で熱を持て余しているのが僕だけなんだって思うと、自分に魅力がないのかなって不安になってしまうけれど。
でも僕は忠文さんがくれるものを信じればいい。そして僕にできる事で愛情表現すればいい。
それだけなんだ。
「……よしっ」
プラン3としては、裸で忠文さんのベッドに潜り込むってものがあったけど、変更だ。
ボディクリームと丈の短めのルームウェアに着替えて忠文さんの部屋へ向かった。
姉と忠文さんが結婚するにあたって実家は改装して、3人それぞれの部屋が用意されている。
当初は新婚で寝室が別って珍しいなぁと思ったけど、仮面夫婦だと知ってからは納得した。
「……日向?どうしたんだい?」
忠文さんのベッドで、持ってきた道具を抱えて船を漕いでいた時だった。
「忠文さん、勝手に入っちゃってごめんなさ、い……」
寝ぼけ目で顔を上げると、お風呂あがりでしっとりした忠文さんが上半身裸で立っていた。自分とは比べ物にならない見事な筋肉に津い身惚れてしまう。
「どうした?調子が悪いなら今からでも病院に……」
「血、違うんです!忠文さん今日はもうこのまま寝るだけですか?……なら、そのまま横になって欲しいです」
戸惑う忠文さんを引っ張ってベッドにうつ伏せになってもらう。
「最近残業も多くて疲れも溜まっているでしょう?眠かったらそのまま寝てください」
「あ、あぁ……」
ボディクリームを手に取って、ふくらはぎの張っている筋肉をほぐす。
学生時代はラガーマンだったという、忠文さんの肉厚でいてしなやかな肉体美を堪能しながら全身をマッサージしていく。
ふくらはぎから太もも、臀部はなんとなく避けてしまって、腰の上から背中にかけて。忠文さんの体にまたがって体重をかけて揉み解す。
「ありがとう……すごく気持ちいいよ」
「えへへ……よかったです」
「今日……いつもと違うけど、どうしたの?……何かあった?」
忠文さんがうつ伏せのまま振り返るけど、目を合わせていうのが恥ずかしくて、肩甲骨のあたりに顔を埋める。
「日向?」
「……そのまま聞いてください。僕が今日おかしかったのは……」
あの日から二ヶ月経ってもキス止まりなことを少し不安に思ったこと、それで今日大学の友達に相談して……さ、誘いかたを聞いたこと。
「それで様子がおかしかったのか……」
恥ずかしくて、忠文さんの広い背中から顔を上げられない。
「で、でも、忘れてください……」
「ーーどうして?」
気付いたら視界が反転していて、忠文さんの顔と天井が見えた。
恥ずかしくて手で顔を覆った。
「僕はてっきり、君は性欲と無縁だと……。あの日も性的なあものを感じて怯えさせしまったと思って自重してたのに……」
指の隙間から見える忠文さんの顔は、とてもいい笑顔だった。
「嬉しいよ。日向に男として見てもらえてたなんて……」
「た、ただふみさんを意識しない方が無理です……!」
もう恥ずかしくて顔は見せられないし、忠文さんの顔も見ることができない。
「ふふ、嬉しいな」
「ひゃっ……」
耳許で囁かれ、くすぐったさに声をあげて肩が竦まる。
「君に怖がられると思ってキスから徐々に慣れてもらおうと思ってたのに」
忠文さんの手が髪を撫で、そのまま頬を撫でる。顔中にはキスの雨が降る。
肌がそばだつような感覚に腰が甘く痺れる。
「ふ、……ぁ……」
「かわいい……日向くんは僕とシたいって思ってもいいの?」
心臓の音がうるさい。顔から火が吹きそうだ。恥ずかしさに目をつむって言った。
「電気は、消してください……」
「サイドボードの明かりだけつけさせてもらうね」
スイッチで部屋の明かりを落とされ、その手でオレンジ色のランプがつけられる。
「はぃ……ぁん……」
普段のキスとは違うキス。忠文さんの舌が深く僕のそれを逃さないと言わんばかりに追いかける。
歯列をなぞり上顎の手前を下で撫でられ腰に甘く痺れる。
股を擦り合わせえて悶えていたら、それに気付いた忠文さんがふっと笑う。
「気持ちいいんだね、かわいい」
「あっ……!」
大きな手がショートパンツのルームウェアの上から僕のモノを撫でる。
器用にも僕が着ていたTシャツをもう片方の手でたくし上げ、小さく主張する乳首を指の腹で撫でる。
「ここは?」
「あっ……わかんなっ……くすぐったぃ……」
「ふふ、じゃあここはゆくゆくだね」
そう言った忠文さんの頭がどんどん下に降りる。
僕のモノを撫で、指で乳首を弄んでいた両手がショートパンツをずり下げた。
「かわいいパンツ、先の方ちょっと染みてきてるね」
「あぁっそんな……!」
パンツの上からモミモミと刺激されて先走りがパンツに滲む。その先端を指先で触れられる。
今日のパンツは忠文さんに連れて行ってもらった服のブランドのパンツだった。
少しでもかわいいと思ってもらいたくて、悩みに悩んだ末に普段は履かない柄物のパンツにした。
そのパンツが先走りで濡れていく。
「かわいい……」
お腹にキスを落としながらパンツが下げられると、硬くなってよだれを垂らす僕のモノがピタンッと下腹部を叩いた。
恥ずかしくて手で隠すけど、その両手を取られて指を絡められる。
忠文さんを見下ろせば悪戯っぽく笑って、僕のモノを口で刺激した。
「そんなっ汚いからやめっ……!」
「汚くないよ」
僕の手を握りながら口で器用に勃ったモノに舌を這わせる。
「あっ……ただふみさっ……んんっ……!」
僕のを咥えた忠文さんを止めたくて、足で肩を挟むけど、逆に抱え込んでしまうようになってしまった。
「あっあぁっ……!だめっ!でちゃうっ……!」
ピュピュッと勢いよく吹き出る。
それが忠文さんの頬を汚し、僕のお腹に飛び散る。
「あっ……ごめんなさい」
忠文さんの手を離して、体を起こして頬についたものを拭う。
「美味しかったよ」
「うそだ……変態で意地悪なんて……」
「嫌い?」
「……好きです……」
目を閉じてキスを受け入れる。夢中になっていると腰を抱えられてベッドに沈められる。
僕のモノのさらに奥、お尻のすぼまりに指が至り、浅いところをくすぐられる。
「……どうしてこんなにすんなり入るのか聞いてもいいかな……?」
「え、えと……お風呂で……慣らしました……」
拡張は調べて自力で以前からしていた。
「ああもう、日向くん、君は……」
そこからの忠文さんは人が変わったようだった。
もう何回イッちゃったのかわからない。
忠文さんのエッチはとにかく僕を快楽の海で溺れさせるようなもので、全部が初めての僕はその激流になす術もなかった。
「た、ぁふみさぁ、あぁもっ……だめ……」
揺さぶられながら僕は意識を手放した。
「……しまった、やりすぎた……」
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